小さな包丁と母の味:河原崎貴恵

 家族の為に食卓に立ち日々ご飯を作っている私の毎日の相棒は小さくて、軽い切れ味の悪い子供用包丁。
小学2年生の誕生日に母が私にプレゼントしてくれたものを今だに使ってる。さすがに大人の私には小さく、普通の包丁に比べたら切れ味は悪いそれでも私がこの包丁を捨てずに使うのは母と過ごしたキッチンでの時が詰まってるいるからなのかもしれない。料理上手な母は夕飯の時間には、私をキッチンに呼びたくさんの料理を私に教えてくれた。
初めは簡単な仕事から母が「この水を鍋に入れて」と言われると
「ママ、ストップって言ってね」
分量など全くわからない私は何度も何度も、ストップって言ってね。と言っていた。
 そんな私にある日突然マイ包丁が送られた。今でもあの嬉しさと送った母の笑顔が忘れられない。その日から私は切る作業を覚えた。
ピーラーなんて使わない。だって私にはマイ包丁があるから。意気揚々とやり初めたが9才の女子がいきなりジャガイモの皮むきは無理だ。それでも母は手の使い方、包丁の持ち方、さまざまなことを教えてくれた。
母と作ったハンバーグかにクリームコロッケお味噌汁、シチュー、カレーライス、おからグラタン、肉じゃが覚えきれないほどたくさん作った。その全てが私には人生で食べたどんな食べ物よりおいしく感じた。それはきっとマイ包丁で、自分で作った格別の味だから。そしてそこにはたくさんの、母の愛があったから母は私に食べること、作ることの喜びを教えてくれた。
 18才で実家を離れた私は今日まで約10年以上マイ包丁とともに料理を作っているがやはり母以上のあの味をいまだに出せない。
母と同じ味を出すには私にはもう少し愛が足らないようだ。でも私にはこの包丁がある。母と過ごしたあのキッチンでの、時間この包丁は母の味を愛をすべて覚えてるような気がしている。
だから私は切れ味の悪い、小さな包丁で今日もキッチンに立ち、あの味を求め続ける。

 

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